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このまま進めば、生きた敵に会う。そしたら子供でも斬らなければならないと思うと、三郎の足は遅れた。それは四郎も同じだろうと思ったが、四郎は言った。
「この狼、ネズミ並の繁殖力やな。子供も容赦したらアカンわ」
だからって斬れるのかと三郎が反論する前に、四郎は続けた。
「どんなに可愛らしくても、たとえ罪はなくても、敵は敵や」
そう自分に言い聞かせる四郎の瞳は潤んで見えて、三郎は慌てて目を逸らし、次郎の後を追いかけた。そして暫く進むと白い塊が動いているのが見えた。
「あれ全部狼?」
三郎がそう呟くと、次郎は唇に指を当てて弓を引いた。太く鋭い矢は、白い塊の遙か上空に飛んでいった。次々に矢を放ちながら、次郎は再び前進し始めた。
「私は龍を狙い続けます。あなた方は一郎様の援護を」
そう言われても龍も一郎も見えない。辺りには霧が充満している。
「何ボーッとしとる。霧払えや」
「わかってるよ」
三郎は覚えたばかりの技を出した。すると白い塊が狼の群れとなり、その中心で刀が光るのが見えた。
「一郎さんや! 三郎、ここで霧払い頼むで」
四郎はそう言うと、斧を振りかざして狼の群れに突進して行った。もう迷いはない。四郎は手当たり次第斬り捨てながら群れの中心に向かい、一郎を見付けた。
「一郎さん!」
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