第10章 龍を喰らう者

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第10章 龍を喰らう者

傷を負った白い龍は森の奥へ逃げた。そして追っ手がいないことを確かめると、踊るように体を動かし始めた。龍の体が動いた場所に白い光の線が描かれ、不思議な模様が完成すると、龍はその中に入り、森から消えた。 消えた龍は、そこから遠く離れた別の森に姿を現した。よく似た白い森だが、そこは先程の森に比べると遙かに広大で、多種多様な生き物が生息している。龍はその広大な森の中心に向かった。そこに白い塔がある。龍は塔の窓辺に主を見付けると大きな声で鳴いた。 「お帰り」 主は窓辺に寄って来た龍の鼻を優しく撫でてやった。 「傷を見せてご覧」 龍は甘えるように小さく鳴くと体をくねらせ傷を見せた。主が傷口を撫でると、龍はうっとりして大きく息を吐いた。 「美味しそうな匂いだね。ついでだから、ちょっと頂くよ」 主はそう言うと鋭い爪で龍の肉をえぐり取った。龍は痛がるどころか恍惚とした表情でじっとしていた。その肉を頬張ると、主は龍の血が滴る手で再び傷口を撫でた。すると見る間に傷口はふさがった。 「もう大丈夫だよ。ゆっくりお休み」 龍は一声鳴いて答えると、森の中にある巣に帰って行った。 龍を見送った主は部屋の中心に描かれた模様の上に立ち、トンと軽やかに床を蹴った。すると主の体は塔から消え、大広間に転送された。部屋は円形で壁、床、天井まで五色に仕切られている。主はその内の白い床まで歩いて行き、白い椅子に座った。 「白龍(はくりゅう)、お帰りなさい」 白龍(はくりゅう)とはすなわち白い龍の主の名だ。彼は白い龍が生息する白い国の長である。肌も髪も全身真っ白だが、瞳は深紅、舌と唇は桜色をした龍人の雄だ。 「ただいま。話進んだ?」
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