第11章 甘い罠

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悲鳴が聞こえた場所まで戻ってみると、そこにいたのは、やはり若い女性だった。次郎が放った矢は、彼女の袖を洞窟の壁に打ち付けていた。 「大丈夫?」 四郎は彼女に手を差し伸べようとしたが、それより先に一郎が刀を突きつけた。 「何者だ。何処から来た」 女は震えながら大きな黒目勝ちの瞳で一郎を見上げた。ふっくらと丸みを帯びた顔は、まるで人形の様に整っている。男なら誰もが頬を緩めるであろう美少女だ。 「まあまあ一郎さん、そんな怖い顔せんで……」 四郎が一郎を宥めようと振り返った時、また女が悲鳴を上げた。引き抜こうとして触れた矢で傷ついたようだ。 「大丈夫?」 心配した四郎が更に近付こうとすると、次郎が叫んだ。 「その女は龍人です」 しかし四郎は動じなかった。 「そうやろな。せやかて悪者と決めつけるのは可愛そうや」 彼女の瞳を見つめながら、四郎はそう答えた。
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