第11章 甘い罠

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しかし耳の翻訳機を外してしまった女にはもう四郎の言葉の意味がわからず答えは返ってこなかった。そして女が再び四郎の手を取って歩き出すと、洞窟の出口が見えてきた。その先に広がっている世界がさっきまで戦っていた世界でも人間界でもないということに四郎は気づき始めたが、どうすることも出来ず女に連れられて四郎は洞窟の外へ出た。 そこは小高い丘の上で、青みがかった緑の森とガラス細工のような街が見えた。その上に広がる空の色が映っているのか、素材の色なのか、建物は全て鮮やかなブルーだ。大きさは様々だがデザインは統一されていて、洗練された都会という印象だ。 「綺麗や……」 視界の隅々まで、全てが美しい。そして壮大だ。暫く街に見惚れた後、四郎は空を仰いだ。作り物ではない青空は久しぶりで思わず深呼吸していると、背後から声が聞こえた。 「ご苦労。後は俺達に任せろ」 低く響く男の声に振り返ると、いつの間にか緑色の巨人に囲まれていた。雄の龍人だ。 「さあお嬢ちゃん、行こうか」 お嬢ちゃんという言葉に四郎は女を見たが、龍人達は四郎を見ていた。 「え、俺?」 誤訳だろうかと暢気に考えている間に抱き上げられ、次の瞬間にはもう部屋の中に移動していた。 (綿菓子くり抜いたみたいな部屋やな……) 床から天井まで全て同じ淡いピンク色の柔らかそうな素材で出来ていて、気のせいか甘い匂いがする。中央に少し濃いピンク色で円い大きなベッドがあり、四郎はその上に下ろされた。四郎は慌てず、騒がず、ベッドに座ってただ物珍しそうに周囲を見渡した。
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