第11章 甘い罠

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「気を悪くした? ごめんね、言い方が悪かった。君は本当に可愛いよ。妻として迎えたいくらいだ。本気だよ」 「へ? ……えっ、ちょっと待っ――」 「キスだけだよ。嫌?」 端正な顔がほんの少し歪んだ。それだけで酷く悪いことをしてしまったような気分になった四郎が大人しく目を閉じると、水色の唇が四郎の唇に重なった。人間の唇より、少しサラッとして冷たい感触だ。優しく丁寧に絡めてきた舌も人間とは少し違ったが、それは決して不快な違和感ではなかった。そしてキスを終えると龍人は約束通り四郎から離れた。 「じゃあ元気でね。大丈夫、多分悪いようにはされないよ。君、可愛いもん」 そう言って彼が立ち上がろうとすると、四郎は思わず彼の手を掴んだ。 「行かないで!」 少し驚いた顔をした彼に向かって、四郎は続けた。 「独りは嫌や。独りにせんといて下さい」 「そう。じゃあ誰か呼ぼうか」 「いえ、あなたが――あなたに側にいて欲しいです」 ここの権力者の1人と思われる龍人を逃したくない。四郎は必死に彼にすがった。龍人は真意を探るように青い瞳でじっと眺めていたが、四郎の手を握り返して微笑むと、ベッドに座り直して囁いた。 「じゃあ……キスの続き、しちゃうよ?」 断るわけにいかない。四郎は頷き目を閉じた。
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