第12章 危険な賭

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「好きなのは私だけではないでしょう?」 「ああ……まあ皆好きって話だけど――」 「そういう所が嫌いなんです」 遠くを見ていた次郎が急に目を合わせてきて、三郎は自分が嫌いだと言われたようにビクリとした。 「でも好きって別に恋愛感情じゃなくて仲間としてだよ。あいつは皆と仲良くしたいって、そう思ってるだけで――」 「ええ。今頃龍人とも仲良くしているかもしれませんね」 「次郎……」 どう答えたらいいのかわからず、三郎は困惑した顔で次郎を見詰めた。 「ごめんなさい。こんなこと、あなたに話しても仕方ないのに。ただの嫉妬です。醜いでしょう?」 次郎は潤んだ瞳を揺らして三郎から目を逸らした。三郎はそれを追いかけるように次郎の両肩を掴んだ。 「そんなことない、次郎は――」 「いいえ。一郎様は純粋に人々を救おうとなさっているのに、私は……」 長い髪を振り乱して自分を否定する次郎を抱き寄せて、三郎は言った。 「ただ純粋に一郎が好きなだけなんだろう?」 自分で発した言葉に傷つきながら、三郎は次郎を抱きしめた。一郎に遠く及ばないことはわかっているが少しでも逞しい男だと思われたいと思って腕に力を込めると、次郎は一瞬三郎を突き放そうとしたが、更に強く抱きしめられると三郎の胸にすがって泣き始めた。美しいであろうその泣き顔を見ないように、三郎は次郎を抱きしめたまま目を閉じた。
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