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「この状況でまだそんな口の利き方をするとは呆れたものだ。その態度では転送紋を通過出来ませんね。仕方ない、歩きなさい」
まるで見えない鎖で繋がれているかのようにグイと首輪を引かれて、一郎はよろけた。
「ちゃんと歩きなさい。歩かなければ引きずります」
青龍はそれだけの力と冷酷さを兼ね備えているという目で一郎を睨み付けた。拒んでも無駄に痛い思いをするだけだと理解した一郎は、屈辱に唇を噛みしめながら青龍の後についていった。しかし、目的地までそのまま歩いていくわけではなく、洞窟を出ると乗り物が用意されていた。
「乗りなさい」
一郎が青龍と共に乗り込むと、それは飛び上がり前方に見える青い城とは反対方向に進み始めた。眼下に広がる青い風景はやがて白になり、そして銀に変わった。銀と言っても金属とは違う。不思議な柔らかさを持つ銀色の光の世界だ。もしも別の場所で意識を失ってここで目覚めたら、天国に来てしまったと思うだろう。乗り物は目映い銀色の草原を越え、高く聳える銀色の城の手前で停まった。
「降りなさい」
乗り物から降りた一郎は、青龍に連れられて城に入った。城の中は銀一色ではなく、色鮮やかな装飾に満ちていて、青龍はその中心で輝く光の塊に向かって跪き挨拶した。
「連れて参りました」
すると光が近付いて来た。近付いて見るとそれは人の形をしていた。
青龍より背が高いが、色は一色ではないのでむしろ人間に近く見える。白い肌に紫の瞳、桜色の唇、そして腰まで伸びた波打つ銀髪。圧倒的に美しく神々しいその姿から聞くまでもなく龍王だとわかったが、一郎は顔を上げたまま眩しさに耐えていた。龍王が、そんな一郎を見下ろしながら軽く指を弾くと銀色の光の輪が飛び出し、青龍の首輪と交換された。
「行きなさい」
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