第13章 囚われの戦士

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新たな首輪で龍王に繋がれた一郎は、何処へと尋ねる間もなく勝手に歩き出した足で壁をすり抜けた。一瞬視界が真っ暗になり牢屋に入れられたのだと思ったが、そこは花と緑で飾られた美しい部屋だった。四郎を迎えに行った部屋に似ていると思っていると、部屋の奥から四郎より着飾った貴人が現れた。 「ようこそ。今日からここがあなたの部屋です」 美しく微笑まれても歓迎される気分にはなれず一郎が黙っていると、貴人は一郎の肩に手を掛け顔を近づけてきた。キスされると思い反射的に顔をそむけると、彼は耳元で囁いた。 「私は、三郎の父でした」 「なっ――!」 驚いて声を上げた一郎の口をそっと指で塞ぐと、彼は続けた。 「今は龍王様に仕える身で、椿と申します。あなたも今日からご自分の花を名乗りなさい」 三郎の父親だとすれば若くても30代のはずだが、とてもそんな風には見えない。それ以前に男性に見えない。よく見れば勝ち気そうな目元が三郎に似ているが、人間の男だった頃の姿が想像出来ないほど、椿は女性的な美に溢れていた。 「一体どういうことですか?」 「少し長くなりますが、私の身の上話をお聞きになりますか?」 「はい。是非お願いします」 静かに頷くと、椿は自分のことを話し始めた。 「ご覧の通り、私はもう人間ではありません。龍人に抱かれ続けてすっかり貴人になりはてました」 人間ではなくなった椿が今どう感じているのかわからないが、少なくとも人間であった頃には過酷な体験をしてきたに違いない。ずっと誰かに話したかったのだろうと思い一郎が黙って聞いていると、椿はこれまでのことを語り続けた。
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