第13章 囚われの戦士

7/9
前へ
/962ページ
次へ
戦士の宿命から逃れる為に家を出て辿り着いた村で、椿は類い希に美しい男性と出会った。三郎の幼馴染みの光の父親だ。彼は資産家で、住む場所も仕事もなかった椿に道場を貸し与えてくれた。 「彼とは出会った瞬間に心が通じ合いました。それが互いの体に流れる龍人の血のせいだと知ったのは、こちらの世界に来る一年前のことです」 美男でお金持ちとなれば当然モテる。光の父は妻子ある身でありながら多くの女性と関係を持っていた。それに関しては妻公認だと彼は堂々としていたが、ある時男性である庭師と関係している所を椿に見られてしまうと涙ながらに自分は男に抱かれないと生きていけない体なのだと告白した。 「彼の母親は龍人でした。あの村にある抜け穴から人間界へやって来たのだと死に際に語ったそうです」 龍人界では女性は結婚しない。結婚するのは男性と中性だ。そして中性は職務として多くの女性を相手にする。子を産むのは女性の仕事で、生まれた子はすぐ施設に引き取られ、性に応じて教育される。そうではない世界があると知った彼女は龍人界を抜け出し、人間界にやってきた。 元の世界ではごく普通の容姿でも、人間界では絶世の美女だ。彼女は村一番の権力者の妻になり、しばらくは幸せに暮らしていた。女性は男性や中性のような特殊な栄養源を必要としないので人間と同じ食生活でも生きられるはずだったが、人間界は龍人達の記録にある時代と違って水も空気も食べ物も汚れていた。それに人間界には龍人界には存在しないウィルスや細菌も多数存在する。それらに免疫のない彼女は次第に病気がちになり、若くしてこの世を去った。自分の血を引く息子も将来苦しむことになるかもしれないと心配した彼女は、死ぬ前に息子に自分と龍の世界の秘密を打ち明けたのだという。 「まさか本当に龍の世界があったとは驚きました」 けれどその頃には、椿の体には家を出た時にはなかった戦士の証が刻まれていたし、何より美し過ぎる光の父が龍の世界の存在を証明していると納得出来た。椿は彼に、妻にも見られないよう気遣ってきた脇腹に浮かんでいた戦士の証を見せて、自分の秘密も打ち明けた。 「その日から、私は彼を抱き続けました。でもそれだけでは足りなかった」
/962ページ

最初のコメントを投稿しよう!

227人が本棚に入れています
本棚に追加