第13章 囚われの戦士

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このまま人間界にいたら彼も死んでしまうのではないかと危惧していたある日、光の父は姿を消した。龍の世界に通じる抜け穴が臥龍山にあると聞いていた椿は、彼を捜しに山へ向かった。抜け穴に辿り着いてみると、封印はもう解かれていた。 「私は急いで後を追いました。すると龍に乗って飛び去ろうとしている彼を見つけたのです」 「龍に乗って? あの時龍の気配はなかったと聞きましたが……」 「ああ……紫色の龍でしたから。紫龍様も一緒でした。どちらも戦士の歴史には存在しないでしょう。引退し力を失ったかつての龍王とその龍の色褪せた姿です。色褪せたと言っても、充分貫禄があって美しかったですけれど」 「では封印を解いたのは――」 「紫龍様です。貴人の気配を感じて迎えに来てくれたのです」 紫龍は椿に、おまえも来るかと尋ねた。ただし二度と人間界には帰せなくなると告げられ椿は迷ったが、共に行くことを選んだ。 「彼を独りで行かせるのは心配でしたし、龍の世界に興味がありました」 椿と光の父が連れて行かれたのは、龍王を引退した紫龍が僅かな従者を連れ移り住んだ辺境の地だった。本来隠居した龍王は妻を持たないが、人間界で育った貴人を他の龍人に任せるのは危険だと判断した紫龍は、光の父を娶った。椿は光の父の世話係となったが、紫龍の国にはそれ程厳格な身分制度はなく、それまで通り光の父と愛し合うことも許された。紫龍の家は王の宮殿と違い質素で居心地が良かったという。 「あの頃は幸せでした。けれど、そんな日は長くは続かなかったのです」 そう言って椿がため息をついた時、部屋に誰か入って来た。殺気を感じて振り返った一郎の目に映ったのは黒い龍人だった。 「捕まえた戦士ってのはそいつか?」
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