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「黒龍様……」
あの全てを溶かす沼の龍の主、黒龍。彼は一郎に近付いて顔を覗き込んだ。
「なんだ。椿のガキじゃないのか」
黒龍は落胆したようにそう言った。黒龍が、三郎の存在も椿が三郎の父親だということも知っているらしいことに一郎は驚いた。
「黒龍様が最初の食事を与えるのですか?」
黒龍は、眉を顰めて尋ねる椿の肩を抱き寄せた。
「へえ、俺が一番乗りか。他の奴等も呼ばれてるはずだけどな。おまえの時もそうだったな。何が気に入らねーのか泣きわめいてやがった。懐かしいなあ、椿」
「人の心は龍人より複雑なのです。黒龍様にはおわかりにならないでしょうけれど」
椿は黒龍の手を払って彼から離れた。
「黒龍様、見ての通り桜さんは怪我人ですから、あまり乱暴に扱わないで下さい」
「フン、それはこいつ次第だな」
龍人界に入ってすぐに捕らえられた緑色の雄より遙かに逞しく大きな黒い雄。これから彼に抱かれるのかと思うと流石の一郎も恐怖を感じて思わず椿にすがるような目を向けると、椿はにっこり微笑んで告げた。
「桜さん、黒龍様に逆らってはいけません。傷を治して体力を回復させて頂きなさい」
素直に体を開け。言葉通りならそういう意味だ。椿は不審そうに見詰める一郎に向かって小さく頷いただけで出て行ってしまった。
「さあて、食事にしようか、桜」
早速ベッドに押し倒された。のし掛かってきた黒龍は緑龍より遙かに重かった。不意をついて攻撃したとしても、勝ち目はなさそうだ。ため息を黒い唇に吸い込まれた一郎は、目を閉じて体の力を抜いた。
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