第14章 逆鱗に触れる

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「勝手に出て行くなんて酷いなあ。婚約したのに」 「えっ、そうでしたっけ?」 「覚えてないの? 益々酷いね」 そう言えば抱かれている時に何か言われた気がする。翻訳機なしで会話を始めたばかりの頃で、正直半分しか聞き取れなかったけれど、愛を語っていることはわかって安易に頷いてしまった。 「こいつが例の?」 五郎は引き留めるように四郎の肩に手を掛けて尋ねた。 「ああ。向こうでお世話になった青二さんや」 四郎はそう答えると青二を真っ直ぐ見詰めて言った。 「酷いのは青二さんの方でしょう。あなたが俺を抱いたのは戦士の力を奪う為やったんですよね?」 「それは誤解だなあ」 洞窟の岩場に座っていた青二が立ち上がった。三郎は思わず後退り、五郎は四郎の肩に掛けた手に力を込めたが、四郎は近付いてくる青二を平然と見詰め続けていた。 「私を受け入れられる貴人は今までいなかった。食事を与えると消化不良で体調を崩しすぐに別れるはめになる。でも君は違う。抱けば抱く程美しくなる。君は私を求め、私はただ君に与え続けた。何も奪った覚えはない。戦士の力が薄れたとすれば、それは君が捨てたんだろう」 四郎の目の前まで来た青二は、四郎の手を取り龍人語で話し掛けた。 直訳すると「私の目に翼を授けてくれ」という意味の言葉で、ベッドで何度か聞いたフレーズだった。その度四郎は軽く頷いていたが、意味を理解しての返事ではなかったと気付いた青二は、その言葉の意味を説明してくれた。
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