第16章 雄の交わり

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「お前達が生まれ育った場所は世界と呼ぶに相応しくない。我らが暮らすここが全て。そうあるべきだというのが今の龍王様のお考えだ」 「おまえの考えはどうなんだ」 「そんな生意気な態度だから后候補から外されるんだ」 黄色い輪が首を締め付けてきて一郎は思わず首輪に手を掛けたが、電流のような刺激が走りすぐに手を離した。もがくことさえままならぬ状態で苦しみ喘いでも許しを請おうとしない一郎を暫し眺めた後、黄龍は一郎を後ろ向きに立たせて背中を見た。 「戦士の誇りか。お前達は歴史を相当ゆがめてしまったようだな。この印は呪縛だぞ」 「あっあっつ――!」 首を締め付けられたまま背中を撫でられて、失神しかけた一郎の体を抱き留めると、黄龍は紅潮した耳元に囁いた。 「解放されれば楽になれる。椿のように」 「戦士から力を奪って人間界を滅ぼすつもりか」 「人間界など存在しない。龍王様は、溜まったゴミを片付けようとなさっているだけだ」 「だからおまえの考えは――ううっ!」 更にきつく首輪を締められ話すことが出来なくなっても一郎は黄龍を睨み続けていたが、ついに意識を失った。すると黄龍は指を鳴らして部下を呼んだ。 「こいつの体をよく調べて報告しろ」 黄色い衣に身を包んだ緑龍達は、黄龍に頭を下げて一郎を別室へ運んで行った。彼等を見送った黄龍は、再び窓辺に向かい外を眺めながら深刻な顔つきで考え事を始めたが、入れ替わりに入って来た妻の気配を感じると微笑んで振り返った。 「ただいま」
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