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「光、熱あるんじゃないか?」
「いいから僕のことは放って置いて!」
熱い息と共に拒絶の言葉を吐き出すと、光は三郎の腕をふりほどいて駆け出した。
いつも穏やかな光に声を上げられた三郎は驚いてしまい、去って行く光を呆然と見送った。
「なんだよ、人が心配してやってるのに……」
あんな光は初めて見た。けれど三郎は半年ぐらい前から彼の様子がおかしいことに気付いてはいた。光は変わった。生まれつき美しいが急激に一段と美しくなり、それと同時に時折不可解な言動をするようになった。大好きだった食べ物に手をつけなくなったり、人に触れられるのを極端に嫌がったり、体調不良で学校を休む日も増えた。
思春期だから。ただそれだけの理由にしては何処か変だ。同じ思春期にいる三郎はそう感じていた。だからこっそり光の後をつけてみたのだ。しかし気付かれてしまった。
「隠れてるつもりだったのに。あいつ敏感だな」
独り言を言いながら、三郎は荒れ地の中央に立つ巨岩を眺めた。
「あれ何だろう……石碑?」
何か書いてあるのだろうかと近づこうとしたが、何故か足が進まない。
まるでそこにゴムの壁があるかのように押し戻される。
「え、何? 気持ち悪い」
ただでさえ日が落ちた山は不気味だ。昼間は美しい緑だった木々が黒い影になって襲いかかってくるように見える。三郎も急いで山を下り始めた。
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