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視覚でも聴覚でも嗅覚でもないが、直感のような曖昧な感覚ではない。光のドームの中心に若い龍が一頭いるが、自分にはその肉を食べることが出来ないとはっきり感じる。そしてその横にその龍の親である龍人がいることもわかる。少なくとも龍人としては自分より格上だ。
自分より遙かに強く、賢く、美しい
「なるほどな……」
龍人が厳格な縦社会を維持している理由がわかった。龍人は相対しただけでどちらが優れているかこの感覚で判断出来る。それは人間同士のような曖昧で主観的な判断ではなく、絶対だ。刀を捨ててひれ伏したい衝動を振り払って、一郎は目を開いた。
「やはり中にいるのは銀の龍と龍王だ。今の俺達では勝てない。引き上げるぞ」
「えっ?」
そう言うと、一郎は来た道を引き返して行った。
「本当に帰るの? 来たばかりなのに? 歩いて帰るの? 転送紋は?」
「うるさい。黙ってついて来い」
四郎と五郎は言われるまでもなく黙って一郎の後について行った。
叱りつけられた三郎はムッとしたが、独り残るわけにもいかず、皆の後を追った。
そして歩いて城に戻ると、一郎はようやく胸の内を明かした。
「今銀龍と戦っても無駄だ。銀龍があのドームに籠もっているうちに黄色い砂漠を超えて龍人界に乗り込み、かつての金龍のように龍を倒し肉を食べながら龍王の城を目指す。そして……次郎を救い出す」
それもまた至難の業だが、やるしかない。3人は覚悟を決めて一郎の言葉に黙って頷いた。
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