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「検査途中ではっきり言えないが、桜は男の能力を併せ持つ特別な貴人かもしれない」
「そうなんだ。それで、誰に食事を?」
「顔は見えないな……あ、花が見えた。これは……菊だな」
「牡丹じゃないんだ」
「残念だな。君の思い人を抱けるかと思ったのに」
そして唇に当たる柔らかな肌の感触が消えると、全身に菊を咲かせている戦士の顔が見えた。捕獲に失敗した剣の戦士だ。
「こいつか……」
「誰?」
「龍王様が大事にされている貴人、椿の息子だ」
龍王は、貴人になりうる戦士達は全員殺さずに捕らえるようにとだけ指示したが、長達はこの剣の戦士を特に重要視している。父親同様龍王を受け入れられる体だと考えられるだけでなく、子供を自分で育てない龍人と違って、かつて人間だった椿にとってかけがえのない存在だと認識しているからだ。
口には出さないが、かつて椿の親友であり恋人だった貴人を殺してしまった龍王が、二度と椿を悲しませたくないと思っていることを、長達は知っている。だから桜の捜索中に彼を発見した時、そちらの捕獲を優先した。
「戦士の中に、そんな子がいるの?」
「ああ。こいつは何としても捕まえないと――うん?」
「どうかした?」
桜が食事を中断してその椿の息子と話し始めた。人間の言葉がわかる黄龍は、2人の会話に耳を澄ませた。
「戦士の他にも貴人がいるようだ。椿の息子に、その貴人を連れて人間界に帰れと言っている」
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