224人が本棚に入れています
本棚に追加
/962ページ
この国の生き物は全て黄龍に服従している。その黄龍の匂いを発する山吹にも、逆らうものはいない。サソリは言われた通り穴を掘った。
「ありがとう。僕が出たら埋めといてね」
山吹は素早く穴を通り抜けた。額に掛けたラリエットが顔に吹き付ける砂を跳ね返して守ってくれるので目はしっかり開けていられるが、数メートル先も見えない程酷い砂嵐だ。
「うわっ、さっきより酷いな」
でも小鳥の巣がある岩場はすぐそこだ。その泣き声を頼りに山吹は歩き始めたが、風に体を押されて行きたい方向に進めない。
「やっぱり無理かな」
引き返そうかと迷っていると強い風に煽られた。転ばないよう反射的に手を開いてバランスを取ると、ゆったりとした袖が羽根のように風を掴み、山吹の体を空へ舞い上がらせた。
「うわっ」
サボテンにぶつかるどころか、その上を越えてどんどん高く舞い上がって行く。
「誰か助けて!」
でも砂嵐の空に助けてくれる生き物はいない。山吹の体は、世界の果てだと聞かされている壁に向かって飛んで行く。
「嘘、やだ、助けて、黄龍――!」
しかし黄龍は外に音が漏れない反面、外の音も聞こえない部屋にいた。山吹の悲鳴は空しく砂嵐にかき消されてしまった。
もうダメだ、ぶつかる
山吹は覚悟して目を閉じた。
最初のコメントを投稿しよう!