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「罠ではないでしょうか。敵がいないと油断させておいて捕まえるつもりでは?」
心配する五郎に、一郎は答えた。
「だったら油断しなければいい。隠れていたとしても敵に近付けば武器は反応する。だが反応しない新種がいるかもしれない。細心の注意を払え」
気配に耳を澄ませていると、壁に近付くにつれ風の音が聞こえてきた。今いる黄色い砂漠は無風だが、壁の向こうでは強い風が吹いているようだ。抜け穴に近付けば、その風を感じるかもしれない。そして壁に辿り着いて抜け穴を探しながら横に移動していた一郎は、微かな風を感じて止まった。
「この上かもしれない」
穴は確認出来ないが登ってみようかと考えて上を見ていた一郎は、何かが落ちてくるのに気づいた。人だ。
「大変や、誰か落ちてくる!」
「下がっていろ」
四郎に刀を預けると、一郎は両手を開いて待ち構えた。腕の中に落ちてきたのは金髪の美少年だった。
「天使や……」
人間が思い描く天使のイメージにピッタリだが、そんなはずはない。貴人だ。それもとびきり上等の。人質として使えるかもしれないと思って眺めていると、彼はギュッとしがみついて一郎の胸に顔を埋めた。きっと怖かったのだろうと思わず抱きしめてやると、彼は顔を上げて人間の言葉で話し掛けてきた。
「あなた、この前ウチに来てた人?」
エメラルドグリーンの瞳で一郎をじっと見つめる彼の額ではダイヤのような宝石が煌めくラリエットが揺れている。ウチというのが黄龍の城だとすれば、彼はきっと黄龍の妻だ。
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