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「黄龍様のお城になら、少しの間おりましたが、何処かから私をご覧になったのですか? 御目にかかるのは初めてですよね?」
「見てはいない。残り香を嗅いだだけ。位の高い男性が妻を連れて来たんだと思ってたけど――桜の匂いもあなただね。食後すぐでも普通こんなに男の匂いはしないでしょ。どういうこと? あなた男なの? 貴人なの?」
興味深い話だと感心しつつ、一郎は尋ねた。
「自分が男臭いとは気づきませんでした。他の者はどうです?」
すると金髪の貴人は一郎の腕の中からひらりと飛び降りてまず五郎の匂いを嗅いだ。
「なんか変な匂い。でも男かな。僕は食べたくない」
ショックを受けている五郎に構わず、彼は次に四郎の匂いを嗅いだ。近付いた金髪の貴人からは花の匂いがする。可愛らしい鼻を近づけられてドキドキしていた四郎は、彼に睨み付けられた。
「あんた、青二の妻?」
「えっまだ青二さんの匂いします? 妻やないですけどその……食事は頂きました」
「あっそう。美味そうだけど、あいつ嫌い」
驚いている四郎に背を向けて、彼は最後に三郎の前に立った。そして匂いを嗅ぐ前にじっと顔を眺めた。
「なんだよ、早くしろよ」
三郎は、照れ隠しに悪態をついて顔をそむけたが、顎を掴んで引き戻された。
「何処かで見たような顔だな。でも赤龍の妻じゃないし……他にあの国の貴人に会った覚えないけど……」
それを聞いた一郎は、椿のことを思い出されてはやっかいだと止めに入った。
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