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「はい。凄まじい風の音が聞こえます。壁の向こうは酷い砂嵐でしょう。それなのにあなたは城を飛び出してこんな所にいらっしゃる。従順なだけの奥様ではないとお見受けします」
一郎の答えを聞いた山吹は笑った。実に愛らしい笑顔だ。
「確かに。でも僕は黄龍に追い出されたわけでも本格的に家出してきたわけでもないよ。そんな僕に何を頼む気?」
「龍王様に負けない位、強い体が欲しいのです。その為に龍の肉を食べさせて頂きたい」
「龍王様と張り合う気?」
山吹は呆れたように目を見開くと、また笑った。
「笑うなよ! 俺達は真剣なんだ。真剣に命がけで戦ってるんだ!」
三郎は山吹に掴みかかりそうになって一郎に止められた。それを見た山吹は真顔になって少し考えた。
「龍は呼べない。呼んだらこんな所にいるって黄龍にバレちゃうし、君達だって捕まる。それに今城のゲートが閉まっていて転送紋を使えないから帰って肉を取って来るのも無理だ。龍も転送紋も使わずにどうやって帰ろうかな――あっ」
何か閃いた山吹はエメラルドグリーンの瞳を一層輝かせた。
「いい手があった」
山吹は左腕につけている腕輪を右手の指先で叩いた。どうやらただの装飾品ではなく、携帯端末のようだ。それで誰かを呼び出すと龍人語で話し始めた。
「なんて言ってる?」
「オウジて人に車で迎えに来い言うてます」
「王子?」
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