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それを聞いた黄二は、一郎を見つめたままニヤリと笑った。
「そうだね。山吹ちゃんは知らない方がいい。とりあえず城に送るよ。この人達はその後だ。こんなに大勢乗せられないし」
そう言うと、黄二は通訳をしていた四郎の前に移動した。
「ちょっと待ってて……すぐ戻るから」
本人を目の前にして少し遠慮がちに通訳した四郎の耳元で何か囁くと、黄二は山吹を連れて車に戻った。四郎が頬を染めて呆然とそれを見送っていると、三郎が詰め寄った。
「おい、行かせちゃって大丈夫なのか? 最後になんて言ったんだよ」
「え……よう聞こえんかった」
「嘘つけ。ねえ、一郎いいの?」
一郎は平然と車を見送ってから答えた。
「黄龍の妻には何事もなかったように城に戻ってもらった方がいいだろう。黄二が戻って来なければ、当初の計画通り自力で壁を越えるまでだ」
しかしまだ強い風の音が聞こえる。垂直な壁を登り、風に逆らって穴の中を抜けるのは難しそうだ。
「戻って来たら車に乗るのですか?」
「それは交渉次第だな。彼は戻ってくると言っただけで、我々に協力するとは言っていない」
「あいつが貸してくれなくても車はあった方がいいよね。誰だよ龍人の世界に車なんてあるわけないって――」
言ってる途中で思い出した三郎は口を閉じた。四郎の口調を真似していたけれど、言ったのは次郎だ。
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