第25章 やつれた男

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赤い龍は上空に描かれていた転送紋をくぐり抜け、既に赤い国に戻っていた。 銀龍を助けた赤い龍人は、白い龍の目を通して様子を覗っていた赤龍だ。突然苦しみ始めた銀龍を見て飛んできた。駆け込んできた戦士から攻撃を受けたのだろうと思ったが、そうではなく首輪の共感レベルを上げた直後にその首輪をした百合が致命傷を負った影響のようだ。そうだとすれば苦痛を感じただけで銀龍の体には問題はないはずだが、まだ心配だった赤龍は尋ねた。 「本当にお体は大丈夫ですか?」 「ああ」 だからもう離せというように、銀龍は自分を抱きかかえている赤龍の腕を押した。 「失礼いたしました」 腕を放しても赤龍は銀龍を見つめ続けたが、銀龍は赤い龍の尾にしがみついている三郎に目を向けた。椿に似た強い瞳を真っ直ぐこちらに向けて人間の言葉で何か訴えている。銀龍しか見ていなかった赤龍は、銀龍の視線を追ってようやくその存在に気づいた。 「あいつ……」 「その戦士はおまえに任せる。絶対に死なせるな」 そう言い残すと、銀龍は宙に描いた転送紋に飛び込んでしまった。赤龍は、その後を追おうと身を乗り出した三郎の腕をつかんで引き寄せると、その赤い髪を引っ張った。 「おまえ、何故俺の色をしている?」 人間はもちろん他の色の龍人にも見分けがつかないような些細な赤の違いも赤い龍人にはわかる。その赤に敏感な目に、三郎の赤は、赤龍の赤と同色に見えた。 赤い龍が勝手によじ登ってきた彼を振り落とさなかったのも、銀龍が彼を託したのもそれ故だろう。食事を与えた別の戦士の体液から吸収したと考えられるが、そんな微量でこれだけ変化するのかと驚ききつつ、まともに食事を与えたらどうなるだろうと考えていると、三郎は頭を掴んでいた赤龍の手を振り払った。
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