第25章 やつれた男

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赤龍は、反抗的な目で意味のわからない叫び声を上げる三郎をしばらく眺めていたが、再び頭を掴むと彼を転送紋の中に投げ込んだ。そして赤い龍に谷に帰って休むよう告げると自分も転送紋に飛び込んだ。転送先は赤い城の中央だった。 「お帰りなさいませ」 本来の主が城に帰還すると、部屋の奥で赤龍の椅子に腰掛けていた龍人が立ち上がった。よく見れば赤いが、遠目には黒く見える髪は乱れ、褐色の肌に艶はない。赤龍はため息をついて彼を睨み付けた。 「おまえ、何日赤い龍を食ってない?」 問われた男はそれには答えず報告した。 「留守中何も変わったことはありませんでした。では失礼します」 「赤二!」 赤龍は部屋を出て行こうとした彼を呼び止め腕をつかんだ。 「おまえ、自分の立場がわからないのか。何かあった時、こんな体では対処出来ないだろう」 「ですから、副長は赤三さんにお譲りしたいと――」 「ふざけるな、来い!」 赤龍より10歳年下の弟、赤二。龍人にとって10歳の年の差はほんの僅かだ。弟なら他にもいるが、同時期に養育施設で育った赤二は、赤龍にとって特別な存在だ。しかし赤二は、赤龍が自分を特別扱いしてくれるのはむしろ迷惑だと思っている。 「あいつはなんですか?」 怒りと苛立ちに満ちた兄の視線から逃げるように、赤二は赤龍の前に部屋に転がり込んできた貴人に目を向けた。赤龍の色をしているが、新しく妻にしようとしている貴人にしては扱いが雑だ。それに変わった服装をしているし、意味のわからない叫び声をあげている。
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