第25章 やつれた男

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「ああ、土産だ。受け取れ」 「は?」 「部屋に入れておくから、後で面倒をみてやれ。おまえはこっちだ」 赤龍は三郎を別の部屋に転送させると赤二を赤い谷に連れて行き、強制的に赤い龍の肉を食べさせた。すると赤二は肌艶を取り戻したが、髪は相変わらず黒いままだった。赤二は、赤龍の真っ赤に輝く髪を見つめながら尋ねた。 「さっきの貴人、随分酷い訛りでしたが、綺麗な赤い髪をしていましたね」 「訛りじゃない。全く違う言語だ。躾が必要だが、きっといい龍を産む」 龍を産むと聞いて、赤二は表情をこわばらせたが、赤龍は構わず続けた。 「彼は龍王様が大事になさっている貴人の息子だ。それがどうしたって思うだろうが、彼等はこの世界で育っていない。彼等の世界には我々のような男は存在せず、貴人も龍は産まない。彼等は女とその間に生まれた子供と共に暮らし、固い絆で結ばれているらしい」 「龍がいない世界――龍王様が消そうとなさっている異世界のことですか?」 「ああそうだ。攻撃をしかける前に助け出してきた」 「ならば王都に連れて行ってその貴人に会わせてやったらいいではないですか。どうして――」 「龍王様に託された。龍王様はお忙しい。そして正しい。黙って従え」 「そうですね。兄上もお忙しいし、いつも正しい」 赤龍は赤二の嫌みに眉を顰めたが、怒鳴りつけるのは止めて静かに諭した。 「おまえの龍は、谷の気を乱している。しっかり息子を愛してやれ。檜扇(ひおうぎ)の子だろ」
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