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実用会話、ストーリー仕立て、任意の3パターンあるという。話したいことは決まっているので任意を選ぶと、習得可能かテストすると言われた。
「は? それは無理だろ」
どうやら初心者は残りの2コースから選ぶしかないようだ。三郎は仕方なく実用会話を選んだ。
『あなたにとって重要な表現とふさわしい言葉使いを選定します。顔を画面中央に合わせて下さい』
言われた通りにすると、すぐに測定が終わり、復唱を始めるので翻訳機を外せと指示された。以後翻訳機が必要な時にはマークが表示されるという。
翻訳機を外すとまた意味のわからない言葉が聞こえてきた。真似しようとしてもなかなか上手くいかない。すると口に付ける方の翻訳機のマークが表示された。それをつけると舌と唇が勝手に最適な動きをした。その状態を覚えて自力で出来るようになるまで何度も練習させられて、ようやく一つ覚えると、今度は耳の翻訳機のマークが表示された。上手く言えれば意味のわかる言葉となって耳に届くはずだ。三郎は、覚えた通り言ってみた。
「ねえ、僕お腹が空いちゃった。あなたが欲しい」
耳元でささやくように聞こえてきた自分の声に鳥肌を立てた三郎は、翻訳機を外して装置に投げつけた。
「ふざけんな!」
学習装置は、貴人にとって最も重要な食事に関する表現を三郎の容姿に最も似つかわしい言葉使いで教えたのだが、三郎はすっかり怒ってやる気をなくした。
「てか龍人って他にすることねーのかよ」
そう呟いた三郎は、四郎の話を思い出した。龍人界で複数の男の相手をさせられたという話だ。さっき入ってきた男には顎を捕まれただけだったが、こんな所で大人しくしていたらまた別の男が来るかもしれない。
逃げる決意をした三郎は、男や使用人が出入りした壁に触れてみた。しかし押してもどこも動かないし通り抜けられそうにない。
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