第25章 やつれた男

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「ちくしょう、なんであいつらは出入り出来るんだよ」 転送紋を使っているようには見えなかったから何か別の方法があるのだろうが、さっぱりわからない。 ここから出られないなら、せめて隠れる場所や武器になるものはないかと部屋中を探ると、部屋の奥の壁に並んだ色とりどりの正方形の中に、転送紋のような文字が書かれていることに気づいた。三郎はその一つに触れてみた。 すると何も起こらないと落胆しかけた次の瞬間、後ろで歓声が聞こえた。振り返ると空中に立体映像が浮かび上がっていた。 円形の闘技場にひしめく観客、その中央には剣を構えた2人が向き合っている。 2人とも同じ銀一色の甲冑のようなもので頭からつま先まで覆われていて顔は見えない。 「この剣……」 剣の形は、一郎の部屋の奥で見つけた王の剣に似ている。大きさはそれより少し小さく見えるが、彼等が大きいのかもしれない。合図の音が鳴ると2人は戦い始めた。 「すげー」 速い。そして力強い。顔が見えないとはいえ、相手は人だ。それなのに躊躇いなく鋭い剣を振り下ろす。本気で殺し合う気だろうかと驚愕しつつ見ていると、ついに一方の剣が相手の腕に当たった。 「うわっ……うん?」 腕が真っ赤になったので流血かと思ったが、そうではなく甲冑が赤くなっただけだった。剣が当たると一定範囲の色が変わるようだ。当然当てられた方が負けなのだろうが、どうも様子がおかしい。一方的に打たれている方がどんどん赤く変わっていくが、全く焦りが見えないのだ。 「こいつ、わざとか?」 案の定、彼はほぼ全身赤くなった所で急に素早く身を翻し、相手の面を連打した。面は変色する間なく砕け散り、驚愕した少年の顔がむき出しになった。真っ赤な勝者は、それを見ることもなく退場して行き、映像が切れた。
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