第25章 やつれた男

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「うわあ、嫌なやつ」 三郎は、別の正方形を押してみた。それもやはり試合の映像だったが、今度は甲冑が青く変色した方が負けた。勝者は面を取らないので確証はないが、恐らく先程と同一人物だろう。 興味を持った三郎は他の試合も見てみた。甲冑は一度剣を受けると変色し、変色したパーツは3回攻撃されると砕け散る。甲冑の下は裸だ。下腹部への攻撃は反則のようで全裸にされる心配はないが、同時攻撃で半裸にされる敗者はいた。面が残っていても敗者は外して顔を見せ、勝者に向かって跪く。面の下から現れたのはいずれも美しい少年の顔だった。甲冑で覆われたままの勝者も恐らくそうだろう。そして会場を埋め尽くす観客は男だ。 「つまり貴人の見世物か」 一度攻撃を受けた後の甲冑の色と、中から現れる貴人の目や髪の色は一致している。これまで見た試合の勝者の甲冑は、いずれも赤く変色したから、戦っていたのは赤い国の貴人だろう。 「全部同一人物っぽかったな」 わざと打たせておいて一気に反撃したり、開始早々連打で終了させたり、ゲーム感覚で戦っているようだが、それを可能にしているのは圧倒的な技術だ。 「こいつ、負けたことないのか?」 三郎は、逃げる方法を探すのも忘れ、また別の正方形を押してみた。先程まで押していた場所から少し離れていて色も違う。 もしかしたら別の種類の映像かもしれないと思ったが、映し出されたのは先程と同じ闘技場だった。また試合が始まり、しばらくすると剣を受けた方の脇腹が赤く変色した。おそらくこちらが今までの勝者だ。しかしわざと打たせたようには見えなかった。 「あっ、またやられた――ああっ!」 再び同じ場所に攻撃を受けた。もう後がない。 リアルな立体映像に引き込まれて今行われている試合を客席から見ているような気分になった三郎は叫んだ。 「あきらめるな、行け!」
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