第25章 やつれた男

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まるでその声に答えるかのように、彼は一気に反撃して勝ってしまった。 「やった!」 歓声の中、敗者が跪いて剣を置き、面を外す。これまでの映像だったらここで終わりだ。しかし今回は続きがあった。勝者は敗者の手を取り立ち上がらせると自分も面を外した。 現れたのは黒髪だったが、風に揺られると赤く光った。勝者と敗者は抱き合い、互いの頬にキスした。勝者は後ろ姿だったが、彼は会場の声に応えて振り向き、顔が見たいと思っていた三郎が思わず身を乗り出すと映像はズームした。当然美しく整ってはいたが、今まで見てきた貴人達に比べると男の子らしい顔立ちだ。そして髪の色も目の色も、さっき一瞬部屋に入ってきた男と同じだ。 「貴人じゃなくて昔のあいつか? いや、でもこんな顔じゃなかったよな」 さっきの男の目は切れ長だった。今目の前にあるのは大きくて丸い目だ。その目をキラキラと輝かせて何か話しているが、全く意味がわからない。 「そうだ、翻訳機」 三郎が投げ捨てた翻訳機を拾いに行こうとした時、突然歓声が大きくなった。敗者が去り勝者が独り残った場内に、眩しい銀色の光が降りてくる。見覚えのある光だ。 「あれは……」 光は、着地すると人の姿になった。波打つ長い銀髪。紫の瞳。あの銀色の龍人だ。彼が手を上げると場内は静まり儀式が始まった。映像を一時停止する方法がわからないので翻訳機を取りに行くのを諦めたから何を言っているのかわからないが、表彰式のようだ。あの銀色の龍人が龍王ならこれは世界大会だろう。赤い貴人は、その大会で優勝したのだ。 「すげーな」 自分が戦ったら勝てるだろうか、自分が無理でも一郎ならきっと勝てると考えていて、三郎は自分が今やるべきことを思い出した。 「こんなことしてる場合じゃなかった。あの剣、この部屋のどこかにしまってないかな」
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