第25章 やつれた男

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「よし、行くぞ」 三郎が思いきって飛び乗ると、ハエは力強く羽を震わせて前進した。 「すげー!」 甘い風が顔に吹き付けてくる。ハエは、一直線に赤い谷へ向かった。三郎が初めて戦ったあの谷とは比べものにならない程広大だ。谷の上空に着くと、ハエは慎重に下降し、開けた場所で三郎を降ろした。 「ありがとう」 去って行くハエに手を振った後、三郎は正面を見た。何かの気配を感じる。しかし近づくとそれは逃げてしまった。三郎は、何かが襲って来たら剣の威力を試そうと思いつつ谷の奥へと進んで行ったが、気配はことごとく遠のいていく。まるで道を空けるように。ならば積極的に攻撃をしかけてみようかとも考えたが、無駄な戦闘は止めようと思いとどまった。 標的は赤い龍だ。赤い龍を探しだし、その肉を食らう。龍人の男と対等に交渉するには自分も男になって対等な力を得るしかない。黄二には無理だと言われたが、三郎はまだ諦めていなかった。 「お嬢さまなんて呼ばせねえ」 絶対に龍を探し出して肉を食ってやる。そう決意して三郎は龍を探し歩いたが、どこまで歩いても見当たらない。 「何処にいるんだよ」 封印した赤い谷では三郎は龍を見ていないので、龍がどんな風に谷で暮らしているのかわからない。樹上か、谷底か、それとも堂々と草原で寝ているのか。 「あれか?」 赤い鱗が見えて草をかき分けて見たが、大蛇の背中だった。しかしその大蛇めがけて上空から龍が急降下してきた。龍は大蛇を鷲づかみすると、炎をはき出して焼き始めた。獲物に霧中な龍は、草むらに隠れた三郎には気づいていない。
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