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チャンスだ。
今なら鋭い爪は大蛇をつかんでいるし、食べ始めれば口も攻撃に使えない。三郎は息を潜めてタイミングを計った。
(今だ!)
三郎は剣を振り上げて飛び出した。しかし三郎より先に別の龍が襲いかかってきた。一回り大きくて、赤一色ではなく黒が混じった龍だ。目のまわりや手足が黒く、体全体も頭から尻尾にかけて赤から黒へグラデーションになっている。
(あんなのもいるんだ)
先にいた龍が獲物を置いて逃げ出すと、そいつは長い爪が生えた足で大蛇を踏みつけて肉を食いちぎった。そしてゆっくり味わいながら三郎に目を向けた。龍と目が合った三郎は動けなくなった。
攻撃をしかけるべきか、逃げるべきか。
迷っている時間はないし、自分で決断するしかないのに。
(クソッ)
三郎が剣を構えたまま固まっていると、龍は視線を外して食事に没頭し始めた。
(行くしかねー!)
三郎は龍に斬りかかった。しかし剣を振り下ろす前に尾にはじかれた。元いた場所より遠くに飛ばされた三郎はすぐに起き上がろうとしたが、動けなかった。
今度は精神的な迷いではない。力が入らないのだ。
体が、変だ
恐る恐る我が身を見下ろすと、服が切り裂かれ、真っ赤に染まっていた。
邪魔者を追い払って食事を続ける龍の尾には黒く長いトゲがあった。普通の赤い龍にはないものだ。
(なんなんだよ、あいつ……)
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