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痛みはない。ただ、力がどんどん抜けていく。
(嘘だろ……俺、死ぬのか?)
傷を治してくれる五郎はいない。機転のきく四郎も、奮い立たせてくれる次郎もいない。代わりに龍を倒してくれる一郎も。
「嫌……だ」
こんな所で死にたくない。声を絞り出すと、龍が再び三郎を見た。まだ生きていたのかというように食事を中断して首を伸ばしてくる。牙をむかれたら、今度こそ終わりだ。けれど動けない。戦うことはおろか、逃げることも出来ない。
と、その時三郎と龍の間に、天から何か振ってきた。そして次の瞬間、龍は後ろに吹き飛んだ。また別の龍が現れたのかと思ったが、それは人だった。
一見黒いが赤く輝く髪。部屋に入ってきてすぐに出て行ったあの龍人、赤二だ。
彼が素手で龍を殴り飛ばしたのだ。
「スゲェ……」
三郎の声が聞こえると、赤二は振り向いて駆け寄ってきた。何か言いながら着物を開け傷を確認する。三郎も恐る恐る見下ろしたが、悲惨な光景に、すぐに目を逸らした。赤二も嘆くような声を上げたが、諦めずに傷口に手を当てた。始めは三郎には痛みどころか触れられている感覚すらなかったが、しばらくするとぬくもりを感じるようになった。しかし力は戻らない。それどころか益々抜けていく。手当をしながら赤二はずっと話しかけてくれているが、何を言っているのかわからないし、意識は薄れていくばかりだ。
すると殴り飛ばされた龍が声を上げた。赤二は三郎に当てていた手を離して立ち上がると龍と口論を始めた。そして龍が大きく長く鳴くと、赤二は決心したように爪を出した。青二が襲いかかってきた時のことを思い出して三郎はビクリとしたが、龍はその鋭く長い赤い爪に自ら首を差し出した。
赤二は龍の首から肉をえぐり取ると、一気に呑み込んだ。一瞬の後、赤二の体は光を発し、より逞しく美しく変貌した。
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