224人が本棚に入れています
本棚に追加
/962ページ
「ようやく我が子と繋がったか。赤と黒の龍の味はどうだった? あの龍を通して、何が見える?」
「今はそのような話をしている場合では――」
「その体になってから血を流し込んだのだろう? なら大丈夫だ。もう傷口はふさがってるじゃないか。問題は体の傷ではなく、心だ」
そう言うと、赤龍は懐から細い針のようなものを取り出した。赤ではなく、銀色に輝いている。赤龍が三郎の額に突き立てると、それはスッと中に吸い込まれてしまった。
「今のは……?」
「龍王様から授かった。これで少しは貴人らしくなるだろう。城へ戻るぞ」
赤龍が転送紋を開いて赤二を促した。赤二は意識を失ったままの三郎を抱き上げて城に連れて帰って行った。
三郎はその後何日も眠り続け、ベッドの上で目覚めた。しかし深い闇の底からようやく浮上してきた彼の意識は、大きく欠落していた。
「お目覚めになりましたか?」
微笑みかけてきた女の顔に見覚えはなく、三郎は不安気に尋ねた。
「誰?」
「名前を覚えていただく程のものではありません。菊様」
「菊?」
「はい。あなた様のお名前です」
「違う。俺はそんな名前じゃ……」
三郎は言葉につまった。正しい名前、『三郎』が記憶の中から抜け落ちている。
最初のコメントを投稿しよう!