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「俺は……俺は一体……」
「気がついたか」
自分が何者かわからなくなっていることに気づいてパニックになりかけていた三郎は、聞き覚えのある声に振り向いた。そこに立っていた男の顔には見覚えがあった。
「知ってる……俺、あんたのこと知ってる……あんた、あんたの名前は……」
忘れているのではなく知らないのだが、三郎には区別がつかない。
「赤二様です」
女が教えた名前に、聞き覚えがある気がした。それは青二や黄二という本当に聞いたことのある名前と似ているからだが、三郎は都合良く勘違いした。
「そうだ、赤二だ。思い出したよ、赤二! 俺あんた知ってる。あんたは……赤二は……俺をいつも守ってくれていた。そうでしょ?」
ベッドから飛び降りて駆け寄って来た三郎にキラキラした目で見上げられた赤二は、困惑の表情を読み取られる前に三郎を抱きしめた。
「おまえは大怪我をして、ずっと眠っていた。記憶が薄れてしまったのはそのせいだ」
「赤二が助けてくれたんだよね。でも俺なんで怪我したんだっけ……」
また不安になった三郎は赤二の服を握りしめた。赤二が黙っていると、代わりに女が答えた。
「思い出せないことを気になさらなくても大丈夫です。先生に診ていただきましょう。ご案内いたします」
三郎が素直に女について行くのを見送ると、赤二は城の中心に移動した。谷を見渡す大きな窓のある部屋だ。そこで赤龍が待っていた。
「菊はまともに言葉をしゃべれるようになったか?」
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