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「ええ。睡眠学習は成功したようです。代わりに人間の言葉と記憶をなくしてしまったようですが」
「なくしてはいない。思い出せないだけだ」
「彼はもう人間ではなく完全に貴人なのですか?」
「ああ。体はな。心まで貴人にするためには教育と愛情が必要だ」
それがおまえの役目だと念を押すように見つめられて、赤二は赤龍から目を逸らしたが、赤龍はそれを許さず赤二の頭を両手で挟んで強引に赤い虹彩の中心で揺らめく黒い瞳をとらえた。
「今菊がはっきり思い出せるのは、おまえに助けられた記憶だけだ」
「俺に、あの子の思い出せない人間への思いを、すべて引き受けろと言うのですか?」
「ああ。おまえも檜扇への思いを全て菊に注ぎ込め」
「そんな偽りの関係、虚しくなるだけです。俺には出来ません」
「出来ないんじゃない。最初から諦めているだけだ。おまえはずっとそうだ。子供の頃からずっとな」
赤龍は赤二の髪をクシャッと掴んで頭を揺すった。
赤龍がまだ赤一で、赤二がまだ黒が混じらず純粋に赤い子供だった頃、二人の容姿はよく似ていた。けれど能力は全てにおいて兄が勝り、それを自負していて自信に溢れた赤一と、よく似た優れた兄がいることですっかり自信をなくした赤二の差は、成長するにつれ大きくなっていった。
「名前につく数字の差、一と二の決定的な差は能力じゃない。色の強さだ。おまえはその気になれば俺を抜ける。おまえはもう黒い力を手にしただろう。なぜそれを磨かない?」
赤龍には決して使うことが出来ない黒い男の能力。それがどんなものか赤二もまだ知らないし興味もない。
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