第25章 やつれた男

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「赤二!」 また兄の説教が始まるのかとうんざりしていた赤二の耳に、明るい声が響いた。医者に診て貰った三郎が急いで帰って来たようだ。三郎は唯一の記憶にすがるように赤二の袖をつかんで見上げた。 「俺、体はもう大丈夫だって。昔のことはよく思い出せないけど、気にすることないって先生が言ってくれた。また勉強しなおして、赤二との思い出ももう一度作り直せばいいだけだって」 同意を求める三郎の瞳から目を逸らさず耐えたものの、まだ決心がつかず赤二が黙っていると、赤龍が代わりに答えた。 「その通りだ。何も心配はない。明日から学校に通うといい。そうすれば友達も沢山出来る」 「はい、赤龍様」 実際に見た赤龍の顔に、赤い国の長で赤二の兄だという知識だけ結びつけられていたので、三郎は恭しく頭を下げた。赤龍はすっかり従順になった三郎に満足して頷いた。 「目覚めたばかりでそんなに駆け回ったら疲れたのではないか? 赤二と部屋に戻ってゆっくりしなさい」 「はい」 赤二は困惑した表情で赤龍を見たが、三郎を放っておくことは出来ず、新しく用意された部屋に連れて行った。 「ここが俺の部屋?」 「ああ。新しい部屋だ。見覚えがないのは当たり前だ」 「そうなんだ」 家具は赤茶色のテーブルセットとピンクのベッドだけだ。窓はなく、正面の薄いピンク色の壁の中央には咲き乱れる菊の絵が飾られている。
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