第25章 やつれた男

27/27

224人が本棚に入れています
本棚に追加
/962ページ
抱けるかもしれない でも抱いていいのだろうか 葛藤しながら赤二は愛撫を続けた。 「あっ……あ、あああっつ!」 三郎が大きく体を震わせると、菊の香りが部屋いっぱいに広がった。肌を彩る菊の花びらに落ちた甘い露を舌先でぬぐい取った赤二が顔を上げると、三郎は気まずそうに眉をしかめた。 「ごめん、俺……独りで先に……」 「いいんだよ。気持ちよかった?」 「うん、凄く……気持ち良かった」 赤二は、恥ずかしそうに微笑む三郎の頬を優しく両手で包んで口づけた。すると目を閉じた三郎はそのまま眠ってしまった。 赤二は静かに三郎から離れて寝顔を眺めた。やはり初めて見た時とは別人だ。 可愛い。人形のように可愛いだけの顔。 「このまま可愛い妻になってしまっていいのか? おまえ、本当は何しに来たんだ」 赤二は、記憶を失う前の三郎が必死に叫んでいた意味不明の言葉を思い出してみた。あの時はどうでもいいと思っていたのではっきりは覚えていないが、何度か繰り返されたフレーズは頭に残っている。 ジロウハブジナノカ、ジロウニアワセテクレ 「――翻訳してみるか」 赤二はそっと三郎の髪を撫でると、静かに部屋から出て行った。
/962ページ

最初のコメントを投稿しよう!

224人が本棚に入れています
本棚に追加