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「雛罌粟さん、また遅刻ですか?」
「いえ、今日は新入生を連れて来ました。えっと……」
雛罌粟と呼ばれた彼は、三郎に鼻を近づけて素早く三郎の花を嗅ぎ当てた。
「菊くんです。菊くん、こちらは蘭先生だよ」
紹介された三郎は、教師を見上げた。赤紫の髪をきつく結い上げ質素なローブに身を包んでいるが、隠しきれない華やかな色香が全身から溢れ出ている。三郎は頭を下げることを忘れて見惚れながら挨拶した。
「は、はじめまして。よろしくお願いします」
「はじめまして。担任の蘭です」
教師は三郎に自己紹介した後、何か言いたげに雛罌粟を見たが、軽いため息で許して歩き出した。
「教室にまいりましょう」
三郎は早足で教師を追って校舎に入った。階段を上って甘い香りが漂う廊下を進み、一番奥の扉を開けると、中にいた生徒が一斉に立ち上がって挨拶した。
「おはようございます」
「おはようございます。今日からまた初等科の生徒が増えます。菊さん、こちらへ」
そう言われても、雛罌粟がいつの間にか自分の席についてしまって独り入口に残されていた三郎は戸惑っていた。髪や瞳の色は様々だが、一様に美しい貴人達がこちらを見ている。自分も同様に美しいという自覚のない三郎は、気後れしてしまったのだ。
「菊さん、どうしました?」
「あ……はい」
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