第26章 貴人の学校

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三郎は竦んだ足をなんとか動かして教室の中央まで進んだ。 「菊……です。よろしく……お願いします」 頬を染め俯きながら挨拶を終えると、教師がねぎらうように肩を抱いて空いた席を指さした。 「そこの席に座りなさい。さあ、授業を始めます」 そしていきなり始まった最初の授業は、花の生態についてだった。 「貴人の肌には、生まれた時にその地域で最も美しく咲いていた花が刻まれます。その花について知ることは、自分自身を知ることに繋がります」 教師は生徒達の机を一つずつ指で叩き、机上にそれぞれの花の立体映像を浮かび上がらせていった。雛罌粟、鈴蘭、向日葵。生徒のイメージと一致する花が次々と咲いていく。そして三郎の番になった。 「あなたは……少し変わっていますね」 そう呟きながら教師が三郎の机を叩くと、どよめきが起こった。他の生徒の机の上には一輪だけなのに、三郎の机の上は様々な品種の菊で埋め尽くされたからだ。 「菊くん、凄いね」 「あ、いや……君の花の方が綺麗だよ」 「ありがとう。菊くんって可愛いね」 三郎にはそう言ってくれた貴人の方がずっと可愛く見えた。微笑み掛けられるだけでドキドキしてしまう。同性の仲間なのに、どうにも落ち着かない。それなのに、授業が終わると遠くの席の貴人まで三郎の元にやってきた。 「菊くん、さっきの花、全部咲くの? 綺麗だろうね。見てみたいな」
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