第26章 貴人の学校

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真っ白なショートヘアの貴人が、そう話しかけながら机の上に投げ出されていた三郎の手に細い指を重ねると、鮮やかな黄色い髪の貴人が三郎の背中を包むように小麦色の腕をまわしてそのショートヘアの貴人の手を掴み上げて優しく握った。 「鈴蘭(すずらん)、もう菊くんをお茶に誘う気?」 手を繋いで見つめ合う2人に挟まれて三郎が身動き取れずに困っていると、鈴蘭は黄色い髪の貴人、向日葵(ひまわり)の手を振り払って横にいた雛罌粟の腰に手を回した。 「向日葵こそ狙ってるんじゃないの? 向日葵は小さくて可愛い子好きだもんね。ねえ雛罌粟?」 鈴蘭と雛罌粟は身長も体型もほぼ同じで、抱き合っている姿は毛色の違う子猫の兄弟のように可愛らしい。そんな2人と同列に扱われて戸惑っている三郎に、雛罌粟が問いかけた。 「菊くんは貴人も逞しい方が好き? それとも可愛い子の方がいい?」 「え、俺は……」 男とは別に貴人に対しても恋愛感情を抱くのがごく当然のこととして問われた三郎の頭にぼんやりと次郎の姿が浮かび上がってきたが、それははっきりした像になる前に散ってしまった。三郎が答えずにいると、雛罌粟たちはすぐに他の話を始めた。 話の中心にいたはずなのに孤立してしまった三郎は、そっと席を立って窓辺に向かった。すると建物から出て行く集団が見えた。デザインは同じだが、もう少し濃い緑色の制服を着ている。もちろん皆美しい貴人達だが、そのうちの一人が気になって目で追っていると、いつの間にか隣に立っていた生徒が教えてくれた。 「中級クラスの生徒だよ。校外学習に出掛けるみたいだね。あの子、目立つだろう? 昨日までこのクラスにいたんだけど、昇級しちゃったんだ」 「そうなんだ」 それは残念だと思いながら、三郎は、銀色のメッシュが入った長い黒髪と真っ白な肌のコントラストが美しいその生徒を目で追い続けた。 「お茶会が苦手なんじゃなくて、このクラスにタイプの子がいないだけか」
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