第26章 貴人の学校

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気付けば他の生徒達は皆自分の席に戻っていた。三郎が仕方なくもやもやした気持ちのまま席に戻ると、さっきとは別の教師がやってきた。授業の内容も三郎にはわからないことだらけだったが、教師や周りの生徒が丁寧に教えてくれて無事一日目の授業を終えると、担任の蘭が連絡事項を伝えに来た。 「明日は剣術の授業を行います」 蘭がそう告げると教室がざわめいた。喜んで歓声を上げる者がいる一方で、嫌そうな顔でため息をつく者もいる。 「剣術は苦手な人も多いでしょうが、痛みと恐怖に耐えて競い合うことは、いずれ龍を産むあなた方にとってとても有意義な経験になります」 剣の戦士だった記憶を封印され、この世界での剣術の知識しか頭に浮かばない三郎は特に何とも思わず説明を聞いていたが、疑問を感じた隣の席の生徒が手を挙げた。 「でも前回世界大会で優勝した貴人は、最初の出産で亡くなりましたよね? あれは剣術のせいでは……」 「確かに、前回優勝者は残念なことに若くして亡くなりました。彼は妊娠しても剣術の稽古を続けていたそうですが、それは直接の死因ではありません。隠れて稽古をしている最中に特殊な龍を出産し体を修復出来なかったことが原因です。それに生まれた龍は今も元気に育っています。彼は貴人として立派に生涯を全うしたと言っていいでしょう。貴人は皆、いつか龍を産んで死にます。しかし恐れることはありません。最後に産む龍に全てを託して眠りにつくだけです。あるいはこう考えればいいのです。貴人として十分生きた後、龍に生まれ変わる。最後に産む龍こそ、我々の本来の姿だと」 そう言われても死は怖い。教室はざわめいた。蘭はそれをかき消すように声を張り上げた。 「貴人が龍を産まなければ、世界は終わります。命がけで龍を産むか、産まずに世界と共に滅びるか、どちらを選びます?」 皆が蘭の視線を避ける中、三郎だけは真っ直ぐ前を見ていた。蘭と目が合うと、三郎は立ち上がって叫んだ。
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