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通信を切って保健室に戻ると、三郎はすっかり平静を取り戻していた。
「痛みは治まったようですね」
「はい。もう大丈夫です」
そう答えてにっこり微笑む三郎は、他の生徒となんら変わらなく見えた。赤い谷を破壊し黒い龍を殺した過去など想像出来ない。
「ではもう帰りなさい。先程話した通り、明日は剣術の稽古をします。今夜はしっかり食事と睡眠をとりなさい」
「はい」
しかし三郎が学校から帰ってみると、赤二は出掛けていた。
赤二は黒い国にいた。そんなつもりはなかったのだが、赤い谷で暴れていた赤と黒の龍を連れ出し好きなように空を飛ばしていたら、赤い龍では許可無く超えられない国境をすんなり飛び越えてしまったのだ。
「へえ。おまえはこっちの空も飛べるのか。おまえまさか、黒い龍の餌を食べる気か?」
眼下に灰色の沼が見えてきた。赤と黒の龍は喜んでそこへ向かったが、着地しようとすると動けなくなった。しかし赤二は動じず、自由を奪われた龍の心をなだめるように言い聞かせた。
「黒龍様に見つかったな。大丈夫。黒龍様は、兄上と違って話のわかるお方だ」
すぐに黒くそびえ立つ黒龍の城から猛スピードで車が飛んで来た。黒龍の部下が連行しに来たのだろうと思ったが、窓から顔を出したのは黒龍本人だった。
「そいつが赤と黒の龍か」
赤二は、怒っているというより驚いている黒龍に頭を下げて答えた。
「はい。勝手に入国して申し訳ございません」
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