第26章 貴人の学校

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命令口調だったが、声は上ずっていた。顔を見ると、泣き出す寸前のように瞳を潤ませ眉を寄せていて、その表情に恐怖を読み取った赤二は手を下ろした。 「ごめん。君の花を見たかっただけだ」 貴人はさらに眉を寄せて赤二を見詰めた。やはり何かが怖いらしい。しかし赤二が彼を安心させようと目を逸らすと、貴人は自ら着物を脱ぎ捨てた。 「見ろよ」 視線を戻すと、一糸まとわぬ引き締まった体の左脇腹から胸にかけてくっきりと浮かび上がった赤い花が見えた。それはやはり檜扇の花だった。赤い国では珍しくもない花だが、ここは黒い国だ。この国で産まれた貴人の肌に咲くことはあり得ないはずだ。赤二が不思議に思って眺めていると、黒二が説明してくれた。 「彼は国境の村で生まれた。そこにはほとんど花が咲かない」 「それで国境を越えた我が国の花が刻まれたと?」 「そうだ。そもそも貴人が生まれることすら滅多にない地域で、調査を怠っていた。彼はそこで隠し育てられていた」 「女達の手で?」 「ああ。女達に甘やかされて育った。引き離すのに苦労したらしい」 「それで……あっ」 「つまんねー話してないで、早く出せよ」 依然騎乗していた貴人が、腰を激しく振り始めた。 赤二は話を中断して黒二から貴人に視線を戻した。唇を噛みしめてじっとこちらを睨んでいる。こんなに悲痛な表情で食事をする貴人は初めてだと驚きつつ黒二の話からその理由をなんとなく理解すると、急に彼が愛しく思えてきた。 「じゃあ、体位変えるよ」
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