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「いやだから……そういうことじゃないかな」
「わかんないよ、何?」
「ほんとに?」
失笑された三郎は、頭にきて黒百合に剣を突き出した。黒百合は、あえて避けずにその剣を体で受け止めた。
「うっ」
「ごめん、大丈――うわっ」
無防備に近づこうとした三郎は返り討ちにあった。
「当たってもちょっと痛いだけだろ? さあもう後がないぞ。いい加減本気だせよ」
剣を受けた瞬間鋭い痛みが走ったが、体はもちろん防具も傷ついていない。三郎は迷いを捨てて素早く剣を振るった。しかし手足が長く俊敏な黒百合にはなかなか当たらない。他の生徒達が試合を終えても、2人は決着がつかなかった。
「菊くん、頑張れー」
生徒達は2人を囲んで応援し始めた。
そこへ中級の生徒達がやってきた。その中には昨日窓から見た一際美しい生徒もいて、彼は下級生の後ろを通る時にちらりと三郎を見た。彼と目があった三郎は一瞬試合を忘れて黒百合の剣を避け損ねてしまった。
「はい、俺の勝――おい!」
三郎は剣を置いて彼に駆け寄った。
「あの!」
声を掛けて振り向かせたその生徒の顔を間近で見た三郎は、改めてその美しさに感動すると同時に、何故か懐かしさを感じて尋ねた。
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