第27章 剣術

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「どこかでお会いしたことないですか?」 彼は眉を顰めてじっと三郎を見つめた後、冷ややかに答えた。 「仮にそうだとしても、あなたが思い出せないのに私があなたを覚えているわけないでしょう?」 「俺、事故で記憶をなくしてしまったんです。俺のこと、知りませんか?」 彼は一瞬驚いたように目を見開いたが、帰ってきたのは三郎が期待した答えではなかった。 「なくしてしまうような記憶なら、思い出さない方がよいのではないですか?」 「そんなこと……」 「菊さん」 様子を覗っていた教師がやってきて、彼と三郎の間に立った。 「次の授業が始まります。中級生の邪魔をしていないで、早く着替えなさい」 「でも」 「黒百合さんが待ってくれています。他の生徒はもう教室に帰りましたよ」 言われて振り返ると、黒百合も着替えを終えていた。教師と話している間に中級生の彼は行ってしまったし、三郎は仕方なく黒百合の元へ走った。 「はいこれ、着替え」 「ありがとう」 「こっちを向いて着替えろ。後ろは見るな」 反対側で中級生が着替えている。もちろん三郎はまだ彼が気になっていたが、黒百合の言うとおり黙って着替え始めた。すると、三郎を監視しつつ中級生を見ていた黒百合が言った。
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