第27章 剣術

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「おかえりなさい。いました?」 「ああ」 妻の隣に座ったものの、赤龍はそれ以上何も話さす、妻も黙って寄り添った。 赤龍の妻、カンナ。 髪はもちろん眉も睫毛もその奥に輝く瞳も真っ赤だ。肌は白くしっとりと滑らかで触れれば貴人に間違いないことがわかるが、貴人離れした巨体なので見た目はまるで混色の男だ。その丈夫な体で強い龍を産み続け千年の時を生きてきた。赤龍には他にも妻がいて、カンナは死んだ先代の赤龍に託された3番目の妻だが、他の妻とは桁違いの年長者だ。 カンナが深刻な表情を浮かべたままの夫の手にそっと触れると、赤龍は我に返ったように話し始めた。 「檜扇への思いを菊に注げと命じたのは俺だが、まさかこんなに早く菊をあの訓練場に連れて行くとはな」 「そうですね。隠しプログラムの話はなさったのですか?」 「言えるわけがないだろう」 赤二と三郎の気配が城内から消えたことに気づいた時、赤龍はカンナの部屋にいた。更に意識を拡大して国中を探したが、2人は見当たらなかった。そこで転送ゲートを調べたが、彼等が通り抜けた記録はなく、車は車庫にあり、赤と黒の龍は谷にいた。 となればゲートを通らず転送紋を使って国外へ直行したとしか考えられないが、行ける場所は限られている。まさかと思いつつ王都にある訓練場に行ってみると、2人はそこにいた。あの訓練場は、檜扇が剣術の世界大会で優勝した褒美として龍王から譲り受けた世界最古の訓練場で、創ったのは先代の王、金龍だ。現在の大会に合わせて修正は加えられているが、まだ昔のプログラムが残っている。檜扇は、その噂を聞いてあの訓練場を求めた。そして恐らくそれを発動させて死んだ。 「赤龍様は、本当に弟思いですね」 「そんなんじゃない。あいつに話せる程、確かな話じゃないってだけだ」
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