第27章 剣術

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その数日後、檜扇がいなくなったと赤二が泣きついてきた。赤龍はすぐ長の力で国中を見渡したが、確かに何処にも見当たらない。 「訓練場じゃないのか?」 訓練場は檜扇のものだが、王都にあるのでそこに入られたら赤龍には検知出来ない。 「訓練場の鍵は昨日私が出掛ける時に説得して預かったままなので使えないはずです。それに最後に檜扇を見た者は、赤バエに乗って谷へ出掛けたと……」 訓練場への転送紋はデジタル端末では入力出来ないし、書き換え可能なペンダントに刻むことも出来ない。訓練場に入るには転送紋を深く刻みこんだ鍵を使うか自力で描くしかなく、密かに鍵を複製することも自力で転送紋を描くことも貴人には不可能なはずだが、檜扇は普通の貴人ではない。赤龍は、心を読もうとして失敗した時の檜扇の顔を思い浮かべた。 「訓練場に行ってみよう」 そして檜扇は訓練場で遺体として発見された。飛び散った肉片を喰らう赤と黒の龍と共に。 赤龍はパニックに陥った赤二を黒二に預け、赤と黒の龍を最強の赤い龍に任せると、独りで檜扇の遺体を処理した。とても他の者に見せられる状態ではなかった。こうなる危険を知りながら防げなかった自分の無力を詫びながら、赤龍は龍を産んで弟の妻となった檜扇を精一杯美しい花嫁姿にして赤二に返した。 その後檜扇の死を知った剣士達が自ら申し出て訓練場の調査が行われた。そして通常のプログラムでは檜扇がお腹の龍に響くほどの攻撃を受けることは考えられないし、そもそも世界王者が没頭出来るような難易度ではないことはわかったが、隠しプログラムを発見することは出来なかった。結局ここを使わなければいいだけだという結論に達して調査は打ち切られ、忌まわしい訓練場は忘れさられた。 赤龍がそれを思い出したのは、人間界から来た戦士が転送紋を刻む映像を見た時だ。檜扇がどうやって訓練場に入ったのか、その時に知った。鋭い爪がなくても、特殊な刃物を使えば貴人でも転送紋を描けるということを。赤龍がその発見をカンナにだけ伝えると、カンナは更に驚くべき事実を打ち明けた。
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