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「そんなことはわかっています。あなたの心が何処にあるのかくらい、見えなくてもわかります」
カンナはあくまで貴人なので、どんなに強くなっても男のように相手の頭の中を見ることは出来ないはずだが、その真っ赤な瞳に見つめられると何もかも見透かされているように感じる。生まれ持った資質と長年の経験によるカンナの推測の的中率はほぼ100パーセントだ。
あの日銀龍を抱き上げた時に見た、光が弱まりただ白くぼんやり輝いていた喉と無防備に開かれた桜色の唇を忘れられずにいることを、カンナに隠すことなど出来ない。
「私では感じないのでしょう。ならば薬の力を借りるしかないではありませんか」
赤い睫毛を振るわせて、カンナは訴えた。計算された表情。しかしその計算は完璧だ。
「何をバカな。あなたは昔からずっと最高に魅力的ですよ。カンナさん」
まだカンナが先代の妻だった頃の少年に戻って、赤龍は敬語で囁きながら体を反転させた。
カンナは赤龍の初恋の人だ。長の妻として豪華な衣装に身を包んだ彼は、他の貴人とは比較にならない程華やかで美しく、威厳に満ちていた。その後先代が亡くなり、他の男の食事を拒んで部屋に閉じこもっていた所に長を継いだ赤龍が押し入ると、てっきり泣き崩れていると思っていたカンナは、いつものように豪華な衣装を纏って背筋を伸ばし、ただ椅子に座っていた。そして入って来た赤龍を見ると、微笑んで言った。
『あなたが来て下さらなかったら、このまま死んでしまおうと思っておりました。私を愛して下さいますか?』
その言葉を聞いた赤龍は舞い上がり、倒れるまでカンナを抱いた。
そんな遠い日の思い出が媚薬に加えて赤龍を極限まで興奮させ、赤龍は限界までカンナを抱き続けた。
「ああ、美味しかった。久しぶりに、あなたの愛を感じることが出来ました」
赤龍は、激しく上下している赤龍の胸を撫でながら礼を言うカンナを抱き寄せた。
「寂しい思いをさせてすまなかった」
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