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「私は……一郎様にお仕えする為に生まれて参りました」
感じて潤んだ瞳で見詰めながら、次郎は答えた。
一郎は唇の端を上げて微笑むと、次郎から視線を外して呟いた。
「その台詞、三郎に言わせてみたいものだな」
次郎の火照った体に、一瞬冷たいものが走った。
剣崎三郎。次郎とは正反対の少年。
次郎が満開の花だとすれば、三郎はまだ硬い蕾。一郎は、その蕾が放つ微かな芳香に惹かれているようだ。
妻でも恋人でもない自分に、それを責める権利はないことはわかっている。
それでも胸は痛む。
胸の痛みさえ、本来許されることではないけれど、どうすることも出来ない。
次郎は無意識に、一郎の背に爪を立てた。
「一郎様――」
そんな次郎の気持ちを知ってか知らずか、一郎は、苦しそうに自分の名を呼ぶ次郎の唇を優しく唇で塞いだ。
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