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「どうぞ」
許可を得た侍女は、ドレスを手に部屋に入ってきた。椿と目が合うと、彼女は微笑んでドレスを広げた。シルバーから真紅へのグラデーションの薄い生地が流れ落ちて美しいドレープを作り、散りばめられた宝石が光り輝く豪華なドレスだ。
「いかがです? 素敵でしょう?」
「はあ……」
「とてもお似合いになると思います」
「え、私が今これを着るの?」
「はい」
「いや、それは……」
「久しぶりに蘭先生とお会いするのですから、先生が覚えていらっしゃる以上に美しい姿をお見せしないといけません。椿様は龍王様のお后様になるお方。圧倒的に誰よりも美しいことが勤めです」
そう言うと、侍女は椿の服を脱がし始めた。彼女は椿がここに来た日からついている世話係で服選びはいつも彼女に任せているが、動きやすくシンプルな服装が好みだとは伝えているのでこんなに装飾のついたドレスを着せられるのは初めてだ。
「急にどうしたの? 誰かに何か言われた?」
侍女は視線をそらせて口をつぐんだ。どうやら図星のようだが、彼女は黙ってしまった。そして着替えを終えると、侍女は椿に鏡を見せた。
「椿様は本当に赤がお似合いなる」
鏡に映る姿に、椿は未だに違和感を覚える。これが自分だと思うと恥ずかしいが、確かによく似合っている。
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