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「やはりお后様にふさわしいのは椿様です」
「百合さんと何かあった?」
「いえ。ただあの方は随分と積極的でいらっしゃるので……」
百合には別の女がついている。女同士で争いがあるのかもしれないと思ったが、椿はそれ以上の詮索を止めた。
「そうか。ありがとう。先生を客間にお通しして」
「はい」
椿は中庭に面した応接室で蘭を迎えた。窓の外では、各国から献上された本来異なる環境で育つ花々が特殊な技術で一斉に咲き誇っている。蘭はその全ての花を従えるように凜と立った椿を真っ直ぐ見つめて微笑んだ。
「ご無沙汰しております」
「こちらこそ。お会いできて嬉しいです」
「すっかりご立派になられて」
「見かけだけです。それも全て侍女のいいなりです。さあ、どうぞこちらへ」
蘭はドレスではなく詰め襟のスーツを着ている。いつもそうだ。夫が心配性で華やかな服装で外出することを許さず、あの詰め襟の下には首輪があると噂されている。真相は知らないが、飾り気のない服装は、かえって蘭自身の華やかさを引き立てていると椿は感じている。窓際のテーブルに向かい合って座ると、椿は蘭に用件を尋ねた。
「それで、どうして私に会いに来てくださったのですか?」
「はい。私個人ではなく、学校としてお願いがあるのですが、正式に依頼する前に少しお話しておいた方がよろしいかと思いまして」
「学校が私に……?」
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